
変形性股関節症の患者さんを担当することが多いんですが、痛みがなかなか軽減しません。
アプローチ方法などを分かりやすく教えて下さい。。
今回はこんな悩みを解決していきたいと思います。
・変形性股関節症の痛みの原因に対する考え方
・変形性股関節症の痛みへのアプローチ方法
外来リハビリでは、保存で変形性股関節症(以下、股関節OA)の患者さんのリハビリオーダーが出ることが多くあります。
そんな変形性股関節症の患者さんの訴えとして多いのが、可動域制限と痛み。
特に患者さんの訴えとしては痛みが多く、その痛みに対してアプローチすることが多くなります。



でも関節が変形しているし、痛みを軽減するのって難しいんじゃないですか?
こう考えるのは当然ですが、実際に臨床でリハビリを行うと、変形があっても股関節の痛みが軽減してくる患者さんって意外と多くいます。
もちろん変形が進行しているケースでは、疼痛の軽減が難しいケースもありますが、前期や初期の股関節症(中には進行期も)だと疼痛コントロールの図れるケースを多く経験しています。
この記事では、実際に筆者が臨床で用いている股関節OA患者さんの痛みに対する考え方、リハビリのアプローチについてお伝えしていきたいと思います。
では早速みていきましょう。
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股関節OAの痛みの原因は骨頭不安定性
痛みを訴える股関節OA患者さんに共通するのが、「大腿骨頭の不安定性」。
大腿骨頭の不安定性とは、ザックリ言うと…
臼蓋に対して骨頭がガチッと嵌っておらず、色んな方向にブレ易くなっている状態のこと。
ただブレやすいといっても脱臼するとかでなく、本来の可動範囲より僅かに大きく動くイメージを持ってもらうと良いと思います。
この不安定性は、ある一定の方向に起こりやすい特徴があります。
骨頭の不安定性は前方に多い
大腿骨頭の不安定が起こりやすい方向は、股関節の前方への不安定性。


大腿骨頭の前方偏移
なぜ前方への不安定性が多いかと言うと…
股関節の解剖学的な知識を考えると、自然と分かってきます。
股関節の臼蓋は前方に開いていて(浅くなっていて)、さらに大腿骨には前捻があることから、自然と前方へ押し出されやすい解剖学的な特徴があります。


大腿骨の前捻角
さらに骨盤が過度に後傾してしまっている患者さんでも、骨頭の前方偏移がみられます。
そのため大腿骨頭の前方偏移が生じているケースでは、この骨頭の前方偏移に対して、大腿四頭筋や大腿筋膜張筋が緊張を高めることで不安定性を制御しようとする反応がみられます。
これらの筋肉以外にも前方の関節包や恥骨大腿靭帯などへストレスが掛かり、痛みへと繋がっています。
こういった現象は、保存の変形性股関節症の患者さんだけでなく、全人工股関節置換術(THA)など股関節の手術後の患者さんでみられる現象。



確かに大腿四頭筋や大腿筋膜張筋がすごく硬くなっている人って多いですね!
大腿骨頭の前方偏移の評価:A-SLR
大腿骨頭の前方偏移の評価方法は、SLRを用います。
ただ患者さん自身にSLRを行なってもらう「Active-SLR」が評価方法になります。


A-SLRテスト
方法①:患者に自動でSLR(下肢伸展挙上)を行なってもらう
方法②:大転子を触診しておき、SLRに伴い過剰な大転子の前方(上方)への偏移がないか観察
判定:大転子が概ね動きがなくSLRできればOK。大転子の過剰な前方への偏移があると骨頭不安定性あり
注意:SLRに伴う大転子の動きの観察は慣れが必要であり、やや客観性には欠けます
股関節OAの痛みに対するアプローチ
股関節OAの痛みの原因の一つに、大腿骨頭の前方不安定性があるとお伝えしました。
この大腿骨頭の前方不安定性を改善してくことで、股関節の痛みが軽減できてきます。
具体的なアプローチ戦略としては以下の通り
- 筋バランスの改善
- 股関節深層筋の促通
- 脊柱の柔軟性改善
1つずつ詳しくみていきましょう!
① 筋バランスの改善
股関節OAの痛みを軽減するには、まずは筋バランスの改善が重要になってきます。
筋バランスの改善をせずに、いきなり筋力-EXや運動療法を行なっても、思うような効果は得られません。
股関節OAの痛みの軽減をする上では、特に深層筋と表層筋の間での筋バランスが悪くなっているケースが多いです。
もう少し分かりやすく言うと…
表層筋(アウターマッスル)が過剰に働いて硬くなっていて、逆に深層筋(インナーマッスル)は上手く働きにくくなっている状態。
この状態を改善していくことが大切!
特にアウターマッスルである大腿筋膜張筋が過剰に収縮すると、大腿骨頭を外側上方に偏移させてしまい、骨頭の扁平化を助長させてしまい、変形の進行へと繋がります。
大腿筋膜張筋は隣接する筋肉と癒着していて、過剰に働きやすい状態になっています。
まず下に挙げる部位の動きを出してあげて、アウターマッスルである大腿筋膜張筋が過剰に働き過ぎないようにします
・大腿筋膜張筋-中臀筋
・大腿筋膜張筋-大腿直筋
さらに表層筋が過剰収縮しているだけでなく、股関節OA患者さんでは深層筋も使えていないために、非常に硬くなっているケースが多いです。
しっかりとこの深層筋の硬さを取ってあげて、深層筋が働きやすい環境を作っておくことが大切!
中にはトリガーポイントが形成されているケースもあるので、以下の筋肉を中心にしっかりとリリースしてあげましょう
・腸骨筋
・腸骨筋-大腰筋
・中殿筋-小殿筋
・小殿筋
・梨状筋-外側ハムスト
・梨状筋を除く深層外旋筋
・大殿筋
特に腸骨筋や小殿筋には、トリガーポイントが形成されているケースが多く、このトリガーポイントをリリースするだけでも疼痛がかなり軽減する患者さんもいます。
トリガーポイントについて詳しく知りたい人は以下の記事を参考にしてみて下さい


② 股関節深層筋の促通
大腿骨頭の不安定性を制御していくためには、股関節深層筋の働きがすごーく大切!
特に骨頭を臼蓋に押し付ける走行の筋肉や、骨頭を包み込む形で走行する筋肉の働きが重要になってきます。
骨頭を安定させていくのに、重要なのが以下の筋肉
- 腸腰筋
- 短外旋筋(+内、外閉鎖筋)
- 小殿筋
- 中殿筋後部線維
腸腰筋は大腿骨頭の前方を走行し、臼蓋に押し付けつ骨頭を安定させる役割を持ちます。
さらに腸腰筋と外旋筋は、水平面でみた時に、大腿骨頭を包み込み前後方向への動きを制動し安定させます。
また両筋のベクトルの総和は、骨頭を臼蓋方向に押し付けるので、骨頭を安定させます。
小殿筋や中殿筋後部線維は、大腿骨頚部と同じような筋の走行をしていて、骨頭を臼蓋に押し付ける働きをして、大腿骨頭を安定させます。


少殿筋、中殿筋後部線維の走行
深層筋促通のポイント
深層筋を促通する際に気をつけたいのが以下のこと
- 筋が作用する運動方向の最終域・小さな範囲で収縮を促す
- 負荷は極軽度(最大収縮の5〜15%程度)
- 等尺性収縮から行う
- 可能な限り、重力負荷を除去
- 共同筋、拮抗筋の収縮を除去して行う
これらのことに注意しながら行なっていきます。



色々と意識しないといけないポイントがあるんですね!
では、個別に筋肉の促通方法をみていきましょう。
腸腰筋の促通


腸腰筋の促通
腸腰筋の促通は…
股関節屈曲90°で保持し、下肢の重さを支えつつ患者さんに屈曲を繰り返してもらいます。
屈曲角度を深めることで、大腿直筋などアウターマッスルの収縮を抑制しつつ、腸腰筋の働きを高めることができます。


バランスボールを使った促通
代わりにバランスボールで、自主的に行なってもらうのもOK!
小殿筋の促通


小殿筋の促通
小殿筋の促通は…
側臥位で下肢屈曲位から外旋を繰り返します。
運動が難しい患者さんには、下肢を支えてあげたり、収縮に伴う小殿筋の前方への動きをアシストしてあげると良いでしょう!
中殿筋後部線維の促通


中殿筋後部線維の促通
中殿筋後部線維の促通は…
股関節伸展・外転位で、セラピストが下肢の重みを免荷しつつ、その位置を5秒程度、保持してもらいます。
腰椎の前弯に注意しながら行います。
外旋群の促通


外旋筋群の促通
外旋筋の促通は…
側臥位で下肢屈曲位から外転・外旋を行います。
筋力低下を呈しているケースでは、数回行っただけで外転・外旋角度が下がってきたり、“プルプル”と震えてくる方が多いです。
③ 脊柱の柔軟性改善
股関節深層筋、特に股関節を前側から支える腸腰筋の機能を高めていくには、脊柱の柔軟性が大切になってきます。
さらに脊柱が柔軟であれば…
・股関節へ加わる外的モーメントを減らすことができる
・上半身が撓むことができ、衝撃を吸収できて、股関節へのストレスを軽減できる
シンプルに脊柱を全方向に動かしていくのがおすすめ!


脊柱の各方向への動き
- 屈曲-伸展
- 回旋
- 側屈
この3方向への動きをしっかりと出して挙げることが大切!
股関節の理解を深めるおすすめ書籍
いかがでしたでしょうか?
最後に、股関節をより深く理解していくためのおすすめの書籍を紹介します!
どちらの書籍も持っておくと臨床で役立つ良書です。
股関節理学療法マネジメント
股関節の解剖から各疾患のアプローチまで、幅広く股関節を学べる書籍です!
新人セラピストだけでなく、経験年数の豊富なセラピストにも役立ちます(*´∀`*)
筋骨格系のキネシオロジー
股関節の運動学を学ぶなら筋骨格系のキネシオロギーがおすすめ!
セラピストであれば読んでおきたい書籍です。
良かったら参考にしてみて下さい(*´∀`*)
今回は以上です。
最後までお読み頂きありがとうございました!